ミヤザキヒロシの住まいのコラム。
01. 小さくて良質なもの。

いつの頃からか、小さいものに興味がいくようになっていました。住宅建築や、車、家電製品などなど。理由はいろいろあるのですが、『手にとどく範囲』っていうのが最大の理由かも知れません。基本的に住宅や車は、小さいほどコストを押さえる事ができ、無駄なスペースをなくす事で動線を短くできるので、生活もしやすくなり、使い勝手も良くなります。他にも理由があって、無条件で小さいもの独特のデザインも魅力的です。例えば住宅では、人体寸法は、昔からそんなに大きく変わってないので、扉のサイズや、椅子のサイズなどはあまり変わらず、小さな家の場合は、その調和のバランスが面白いのかも知れません。例えば車では、ミニクーパーやFIAT500など、大人が4人乗れますが、とてもかわいくて魅力的です。私が過去に乗ってた車としては、ユーノスロードスター、MGミジェット、ルノーキャトルがあるのですが、小粋な感じがとても良く、かなり気に入っていました。最近までスバルR1に10年近く乗り、その後現在では、FIAT500Cにバトンタッチしました。小ささの魅力にはまってます。

住宅設計においても、我が家の設計は、4人家族で27坪というサイズで、なんとアトリエもあります。とてもメリハリの効いたプランになっており、快適に暮らしています。小さくてもゆったりとした暮らしも可能ですし、豊かな暮らしも可能です。昔から、名建築に小住宅が多いのですが、小さいものには完成度の高いものが多い気がします。

 
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02. 転用の文化。

住まいを考える上で、どんな用途の部屋がどれだけ必要なのかと、検討に入ります。そこで、『どんな部屋で?』に注目してみます。部屋には、それぞれ役割があると思いますが、昔ながらの日本の住まいはどうだったでしょうか?部屋には畳が敷かれ、障子やふすまで仕切り、いろんな用途に使われていたようです。冠婚葬祭などあらゆる用途に対応した畳の部屋はとても優れモノだと思いませんか?西洋では、各部屋は完全に壁で仕切られ各部屋ごとに用途を決められていた様に感じます。西洋と日本の文化の違いだと思いますが、現代でも同じ事が言えるでしょう。特に、リビング、ダイニング、寝室、子供室など部屋には名前を付けます。そして、家具を置き完全に用途が決まっていきます。そこで、ひと工夫。予算や敷地条件など、どうしてもコンパクトにまとめなくてはいけない時、上手に畳室をつくってみては?そうです、部屋に用途を決めずに、畳を敷く事で、布団を敷けば、寝室に。ちゃぶ台を置けば、ダイニングに。ビーズクッションなど置いてリビングに。ちょっとしたデスクを置いて子供室に。

昔の日本の知恵をもう一度うまく使う事で、ひとつの部屋を上手に転用し、用途を兼ねる事でコンパクトにする事が可能なのです。最近は、琉球畳など縁なしの畳がありますので、モダンな部屋と連動させた畳室も可能ですので、イメージを崩さずに粋な空間づくりも可能なのです。

日本の『転用の文化』をいまいちど見直してはいかがでしょうか?
 
 03. 先人の知恵。

外は雨が降っている。でも換気がしたい。そう思う事は、良くあります。夏は日差しを遮って、冬は日差しを取り入れたい。そう思う事も良くあります。いろんな住宅のデザインがあると思うのですが、特に庇は重要なキーワードです。箱型の家でも大きな窓には庇があるといいですね。窓を開けても雨が降り込みにくく、とても効果的です。昔から雨の多い日本の家には庇があり、屋根が特徴的なのが日本の家です。もちろん庇があれば、外壁にも雨が掛かりにくく長持ちします。日本には四季があり、季節ごとに太陽の高度が違うので、庇は、日差しをコントロールできる優れモノでもあるのです。夏は太陽が高いので、室内に日差しが入りにくく、冬は太陽が低いので、日差しを取り入れる事が出来ます。昔ながらの日本人の知恵は、現代にも通ずるとても大事な文化ですね。

少し付けくわえますが、庇と合わせて落葉樹を植えると、夏は葉っぱが生い茂って日差しを遮り、冬は葉っぱが落ちて日差しを通します。なので、住まいのデザインに庇を取り入れながら、植える木の種類も同時に考えると、とても快適な暮らしに結び付くと思います。単に庇と言っても、いろんなデザインにする事が可能なので、イメージにとらわれずに、いろんな住まいに採用する事が出来ると思います。是非住まいを考える時に、庇の事をもっと考えてみてはいかがですか?
   
  
 04. 窓の役割。

窓にはいくつか役割があります。ひとつは、光を取り入れるため。もうひとつは、風を取り入れるため。そしてもうひとつは、景色を眺めるため。その他デザインを成立させるためなど。それ以外にもあるかも知れません。光を取り込み風を取り込む窓は、住まいにおける生命線かも知れません。居室の窓は建築基準法でも最低限の大きさが決められています。もちろん快適に生活するには光と風は特に重要だと思いますし、湿気などの住まいの健康状態を保つ上で影響力のあるものをコントロールする役割もあるのです。景色を眺める窓は、ピクチャーウインドといわれるように、景色の見え方を考え、絵のように見せたりします。日本には四季があるので、絵よりも美しいかも知れません。デザインにも大きく影響し、窓の大きさや形状が特にファサード(建物の顔)の印象を左右します。もちろんインテリアにも影響し、どこに窓を付けるかはとても重要な要素だと考えます。

結局のところ、窓を考えるという事は、外との関係を考える事なのかも知れません。外とどう向き合うか。自然とどう向き合うか。社会とどう向き合うか。そう考えると、窓の役割は、人と自然をつなぐ掛け橋なのかも知れません。

 
  
 05. 明るいところと暗いところ。

『明るい部屋にして下さい。』住まいの要望のひとつで、とても重要な事でしょう。でも、ただ部屋を明るくするために大きな窓ばかり作って落ち着かない空間になってしまうと本末転倒のような気がします。居心地の良い住まいには、適度に壁が必要で、暗く落ち着いた場所も必要なのです。もちろん木造の在来工法は、バランスよく壁を作ることで、構造的に強くなりますので、物理的にも壁は必要なのです。明るいところと暗いところがあると、空間に落ち着きが生まれ、居心地よい場所を作る事にもつながっていき、季節に応じて居場所も変わっていきます。夏は日かげに、冬は日なたに。もちろん空調効率にも関わってくるので、光を取り入れる場所はじっくり検討が必要になってきます。なので、空間を構成する上で、光というものは、非常に重要な素材のひとつと考えられます。また、光が入る位置も重要で、高いところから取り入れたり、低いところから取り入れたり。壁に反射させたり、床に反射させたりして、いろいろと光をデザインする事も可能なのです。

明るいところと暗いところ。この関係は、切っても切れない関係である事をじっくり考慮して、住まいを考えていく事も、私たち建築家の役割だと思っています。
 
  
 06. 空間を考えるうえで。

空間を考える。つまりどういう事だろう?

住まいを考え空間に落とす事は、とても想像力がいる作業だと思います。私たち建築家は、平面プランをスケッチする時は、必ず空間を考えます。同じ平面プランでも、単純に考えて、天井の高さが違うだけでもずいぶん違う感覚を覚えます。一般的に部屋の天井高さは、2400ミリくらいが多いと思いますが、その高さがベストだとは思いません。建築基準法では、居室の天井高さは、2100ミリ以上と決まっていますので、それより低い居室は作れませんが、適度に低い天井はとても落ち着きを感じますし、適度に高い天井はとても開放感があります。
 
私は、住まいの中には、さりげなく演出を考えます。それは、玄関から入り各居場所に行くまでに、天井の高さを変化させ、空間を感じ取れるようにしかけます。とても低い天井の空間から、高い天井の空間へ入った時は、より広く大空間を感じます。また、高い天井の大空間から、低い天井の空間へ入った時は、包み込まれたような感覚になり、とても落ち着きを感じるものです。

空間は、天井高さだけでなく、それぞれの居場所のつながり方や、仕切り方などで、感じ方が変わってくるとも思います。少し段差があるだけでも、なんとなくあいまいな境界線を感じたり、目線がずれて、見え方が変わってきたりします。結局、平面プランだけでは、本当の住まいは、読み取れないものです。空間の感じ方は、人それぞれ個人差がありますが、小さい頃過ごした居心地の良い空間体験が影響しているのかもしれません。なので、自分の中でとても居心地が良いと感じた空間は、どういう空間だったのかをもう一度思い出す事で、新たな住まいづくりのヒントになるかもしれませんね。
 
  
 07. 言葉のチカラ。

『家族の気配を感じる家に』
そんなお施主さんの言葉で、住まいの骨格が決まっていきます。私たち建築家が大事にするのは、そんなお施主さんのひとこと。言葉にこめられた思いや情景を建築に落とし込んでいきます。何気ない会話の中にとても素敵な空間の素が見え隠れしています。これから住まいづくりを考える方々に伝えたいのは、自分たちで間取りを考えるのではなく、自分たちで居心地の良さそうな言葉や、楽しそうな言葉、そして大切な言葉を考えてみて下さい。例えば、『日だまりで読書』、『デッキでビール』、『畳で昼寝』、『ぐるぐる回れるリビング』、『屋根の上でお月見』、『中庭で昼寝』、『車を眺めるリビング』、『部屋の中の緑』、『光の壁』、『ドロドロでも入れる土間』、『景色の良いお風呂』、『外でもない内でもない場所』、『家族が笑顔の場所』など、何でも良いのです。考えてだけでワクワクしてきますね。

そんな言葉には、力があり、夢があり、希望があります。建築は言葉で成り立っていると言っても良いかもしれません。希望を100%かなえる事は難しいかもしれませんが、私たちは、優先順位を決めて実現していきます。しっくりくる住まいは、自分たちにしっくりくる言葉探しが重要になってくると思います。私たちは、そんな言葉を居心地の良い住まいに変えていく翻訳家なのかもしれません。そう考えると私自身、仕事がとても楽しくなります。イメージを言葉にする事は、とても大事な事だと私は思っています。皆さん自身にとって大事な言葉探しをしてみてはいかがでしょうか。それが、住まいづくりの一歩になるのですから。
 
  
 08. 本当に必要なもの。

みなさんの暮らしの中に、どのくらいのものがあふれていますか?暮らしに必要なものは、どのくらいなのでしょうか?それぞれの家庭によってまちまちですが、おそらく年間を通して全然使わないものもあって、なんとなく捨てきれずに押入れの片隅に鎮座しているものもあると思います。私も小さな家の暮らしの中で、捨てきれないものもたくさんあり、最小限の収納からはみ出しそうな状態でやりくりをしています。そんな中、はっとした出来事がありました。私の弟の友人であるフランス人のカップルが、自転車でフランスから日本へ自転車の旅をしているというのです。日本に着いた時に、佐賀の私の実家に少しばかり滞在したのですが、彼らの荷物の量にとても驚きました。とても少ないのです。これまで、大陸を横断して、野宿をしたり、自炊をしたり、いろいろとあったでしょうが、彼らのもつ荷物は、考えに考え抜かれていて、とても感動しました。小さなテント、少しの調理器具、少しの着替え、少しの食糧に、少しの水。それに地図。彼らがとてもカッコ良く見えました。私はその時、思い直しました。自分たちの暮らしの中で、本当に必要なものは、そんなにいらないんじゃないかと。本当に必要で、大事なものを大事に大事に持っておくべきだと思いました。

みなさんも家づくりを考える際、どうしても、もっと収納を、もっと広くという考えになると思いますが、上手に持ち物を整理しコンパクトな暮らしを考えるととてもスッキリすると思います。私は、大きくし過ぎないで、できるだけ小さな家をお勧めしたいと思っています。
 
 09. LDKというカタチにとらわれない。

『あなたの住まいは、何LDKですか?』そんな質問をよく耳にします。ひと昔前からある会話ですが、建築家による現在の住まいの考え方では、何LDKという言葉では当てはまらないように思います。部屋なのか廊下なのか。外なのか内なのか。いろんな要素が絡み合い居心地を形成します。そんなあいまいな空間ほど心地よかったり、楽しかったりします。私たち建築家は、住まい手の要望の奥にあるその住まい手独自の暮らし方を引出し、空間にしていきます。例えば、屋根のかかった屋外のデッキスペース。空の見える中庭。通路にある書斎やスタディースペース。読書のできる3畳程の畳スペース。個室をつなぐガラス屋根の通路(路地)。屋根裏部屋の様なライブラリースペースなど。まだまだ、いろんな可能性に満ちています。想像しただけでウキウキしてきますね。そんな住まいには、それぞれテーマがありそこにストーリーが込められています。

これからは、『あなたの住まいのテーマは何ですか?』そんな会話が聞こえてきそうな気がしています。
 
  
 10. 住まいの中心。

居心地の良い住まいを考える上で、ゆったりとしたリビングを中心でという言葉を良く耳にします。家族が集まり長時間過ごすのは、やはりリビングだと考えがちです。でも私が考える住まいの中心は、ダイニングテーブルのあるテーブルスペースではないかと思っています。食事をする。新聞や本を読む。パソコンやタブレットをする。子供たちがお絵描きしたり、宿題をしたりする。お酒を飲む。お客さんを招く。その他いろんな時間をこのテーブルスペースで過ごします。なので、テーブルスペースを住まいの中心にとらえ、テーブルはできるだけ大きいものにしたいと考えます。子供たちも個室に閉じこもるのではなく、ダイニングテーブルで過ごす時間が増えれば、当然家族だんらんが生まれ、家族のコミュニケーションにつながります。住まい手の違いによっては、テーブルスペースを床座にしたり、椅子座にしたり、対面キッチンにしてテーブルをくっつけたり、広がりのある吹抜けにし2階とのつながりを強くしたり、外部のデッキスペースと近付けて外との関係を緩やかなにつないだり、いろんな生活シーンが考えられます。一昔前にちゃぶ台を囲む家族の姿があったように、今でも家族がテーブルを囲む姿が想像できますよね。我が家でも、いつのまにか家族がテーブルスペースに集まり、思い思いにくつろいでいて、子供たちも部屋にこもるよりはずいぶん過ごしやすい様です。その延長にリビングがあったり、キッチンがあったりします。

もう一度、それぞれの住まい手に応じたテーブルスペースの過ごし方を良く考える事が、居心地の良い住まいを考える事につながると私は思っています。
 
  
 11. 理想の住まいのために。

どんな家にしようかなあ?どんな家が自分たちにとって理想なんだろう?家づくりの最初はこんな疑問で始まるのでは?家づくりには、いろんな選択肢があります。ハウスメーカーで住宅を買う。工務店で家を建てる。建築家と住まいを建てる。微妙な言葉のニュアンスの違いが、家づくりのプロセスに大きく影響します。私たち建築家は、とにかくまっさらな紙に、住まい手の思いをひとつずつ描き加えて、アイデアをどんどん出していきます。家族構成や敷地条件、予算など制約の中で最大限のプランを練っていくのです。

人生にほぼ一度しか無い(いくつか建てる人もいますが)大きな投資ですのでだれもが後悔はしたく無いでしょう。でもどうやって建てたらいいのかわから無いですよね?そんな時に気軽に建築家に相談して欲しいものです。たわいもない会話の中で、いろんな言葉がヒントになり、話す事で、自分たちが思い描く住まいの断片が少しでも見えてきたらグッドですね。建築家との相性も大事です。この人なら信頼できるなあと思える人と出会って欲しいですね。その出合いがあれば、世界にひとつしか無い理想の住まいがとても現実的になると思います。上手に建築家とつきあって、上手に住まいづくりのプロセスを楽しんで欲しいと私は思います。『自分たちは、こんな住まいが理想だったんだ!』ってきっと大発見がありますよ。
 
  
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